マイクロバイオーム創薬で業界にパラダイムシフトを 製薬大手でのキャリアを経てこそ実現したい夢

MGTx STORYでは、メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)の各メンバーが、入社のきっかけや事業にかける思いを語ります。今回は、取締役CSOでありマイクバイオーム創薬に取り組む、寺内淳のストーリーです。

寺内 淳(てらうち・じゅん)
メタジェンセラピューティクス株式会社 Chief Scientific Officer
<経歴> 
京都大学工学研究科合成化学専攻 博士課程修了 博士(工学)。武田薬品工業株式会社での創薬化学研究・中枢創薬研究、研究戦略・マネジメント、米国ピッツバーグ大学博士研究員、小野薬品工業株式会社での研究マネジメント業務に従事。2017年には立ち上げから関与してきた一般社団法人日本マイクロバイオームコンソーシアム(JMBC)の運営委員長に就任し、現職と兼務。 経歴の詳細はこちら 

魅了された「ドラッグデザイン」

大学時代に有機化学を専攻し博士課程まで進んだ当時の私は、その後の進路として大学に残る道を考えていました。しかし、恩師に「化学は基礎研究より応用の時代だから、会社で研究をするのも良い」と言われたこともあり製薬会社に入社することにしました。同じ化学系の学生は、素材開発などを行う化学品会社に就職することが多かったのですが、一方で私は幸せな人をよりハッピーにするよりも、“困っている人をハッピーにする”仕事に就きたいという思いから、製薬の道に決めました。

入社してからは、「創薬化学」に携わりました。研究でありながら、”ドラッグデザイン”とも呼ばれる仕事で、新薬の候補として世界中で誰も作ったことのない新しい構造をデザインして化合物を作る、まさに0から1を作る仕事にとてもやりがいを感じました。

ドラッグデザインには、「サイエンス」だけではなく「デザイン」の要素が含まれます。論理だけでなく感覚の要素を含み、分子構造の組み合わせで自分の個性を出せるのです。例えば、イスを作るという工程において、奇抜なデザインを考えても製造できなければ物になり得ません。ドラッグデザインも一緒で、「サイエンス」の視点で必要な構造に研究者独特の「カン」あるいは「感性」を組み合わせて、「かたちになる(作ることができる)」ことを想定しながらデザインをしていきます。最後にその作った化合物について有効性や安全性などを評価してもらい、医薬品候補を探索するというその作業におもしろさを感じ、のめり込みました。

一番最初の創薬研究の対象疾患は、アルツハイマー病でした。当時(現在も)、誰も成功していない分野でした。一般論ですが、医療として薬を処方するのは医師ですが、その薬を世に送り出しているのは製薬会社しかいません。そのようなことから、自分は医療という世界の中でとても重要な役割を担う仕事をしているんだということを実感していきました。

研究の成功を左右する肝は「戦略」である

大手製薬会社の研究者としてドラッグデザインの研究に取り組んでいたそんな中、米国ピッツバーグに博士研究員として1年間留学することになりました。化学の知識や経験を高めることに加えて、世界に出て視野を広げ、人脈を作ってくるというのが主な目的の留学でした。じつはピッツバーグは移植医療などが有名で医療の世界では有名な地域でもあります。

行ってみて初めて分かったのですが、留学先の研究室の教授は、日本語がペラペラなほどの日本好きの先生でした。そのほかのポスドクや学生などのメンバーも欧米やアジアなどさまざまな国の出身者ばかりで、まさに多国籍の環境で、みんなそれぞれ個性的で、刺激的な雰囲気がとても楽しかったことを覚えています。その後、帰国したのですが、直後に9.11が勃発。まさに世界の転換期の最中に異動したことになります。9.11前のアメリカは、どこも今より安全で自由でした。そんなのびのびした環境の中で留学生活を送ることができたのも、ラッキーだったと思います。

そして帰国後に、また研究員として研究に励んでいたのですが、あるとき、突然本社の製品戦略部への配属が決まります。この異動先である製品戦略部は、疾患領域戦略など全社の戦略を担うマネジメント業務に携わることになります。また、会社として大きくグローバル化に邁進していたタイミングでもありました。おかげで製薬会社の研究開発や営業活動を含め全ての活動を深く理解することや、海外を含めた社内にネットワークを広げることができ、この後の創薬人生にプラスの影響を大いに与えてくれたと思っています。会社の業務全体を俯瞰的に見ることができるようになり、製薬会社の人材として経験値を大幅に上げることができた経験となりました。

その後は自ら希望したこともあって、また研究所に戻り、研究の日々を送ることになります。本社での活動を経て、「研究をやりたい」という気持ちが強くなったんですね。その後、今度はリサーチマネージャーとして、研究も進めながら疾患領域の戦略をつくるというダブルロールを担うことになりました。私は中枢疾患の研究戦略を作成していたのですが、研究の成功を左右する肝は戦略・方針であるという思いから、とても力を入れて取り組みました。その後、全社の研究戦略なども担当したことから、業界団体の委員などの社外の仕事にも携わることになります。このことにより、社外の方とのネットワークの構築や、さらに業界全体などを考える機会も増え、さらに俯瞰的な視野を広げることができました。

イノベーションを目指したコンソーシアムの立ち上げ

その後は紆余曲折あり、別の製薬会社に転職しました。これまでの職務経験を活かし、研究そのものではなく、研究マネジメント業務を担当。それまでにいた大手とはまた環境が変わり、研究部門内では未整備であった制度や体制の構築に加え、作業の見える化や工程表の作成といった、プロジェクトマネジメントの仕組みづくりにも取り組みました。

また、このころに、現在の日本マイクロバイオームコンソーシアム(JMBC)発足につながる活動を始めることになります。大手にいた頃に構想していたビッグデータを作る取り組みへの強い希望を持ちつつ、それまでに築いていた社外の人脈や新しく繋がったネットワークを活用し、企業間共創ができるようなコンソーシアムを作ろうという話に発展できました。

私が腸内細菌の分野に初めて足を踏み入れたのは、このときが初めてです。研究領域自体が未開拓であり、食生活をはじめ普段の生活習慣とも密接に関わっていたり、菌が薬になり得る可能性を秘めていることなど、その応用できる疾患領域あるいは産業の広さに興味が湧いたのです。製薬会社では、腸内細菌をはじめとする体内のマイクロバイオームは、これまでずっと考慮されてこなかった領域でもありました。腸内細菌の魅力と産業化に向けた課題を認識するとともに、この未開拓の研究領域に新しいイノベーションを起こすべく、JMBCの立ち上げに尽力しました。

日本の創薬におけるロールモデル確立に貢献したい

JMBCの紹介をするために、あるイベントで登壇する機会がありました。そこで代表の中原と初めて出会うことになります。このときはまだMGTx設立前でしたが、のちにFMTを基点とした事業を展開するため会社を設立したと、報告を受けたことを覚えています。

FMTの事業化を聞いたときから、FMTの社会実装だけでなく、創薬への応用の展開が必要だろうという思いが心の中にありました。当時、私はまだ製薬会社に在籍していましたが、JMBCの活動の両立をしていくには転職または新たにスタートアップを設立するなどの動きをするべきかもしれないと思い始めているところでした。そうしたタイミングなども重なり、MGTxに入社する運びとなりました。

世界的にみると新薬を創出している会社の7〜8割はスタートアップです。アメリカでは製薬会社での勤務経験がある人がスタートアップに移り、新薬を開発するというのがロールモデルになっています。日本ではその環境が不十分であることがかなり前から認識されている現状があり、今後はそのように日本でもスタートアップが育っていくことが大切です。そうしたイノベーションから産業化に繋げるというエコシステムの発展に自分もひとつ役に立つことができればという思いで、日々尽力しています。

医師や研究者とフラットな議論を交わせること

MGTxでは、マイクロバイオーム創薬に関する業務をメインにマネジメントに当たっています。これまで環境に恵まれた大手にいた期間が長いため、専門外の業務も手広くこなすことを新鮮に感じます。裏を返せば、何でも自分たちだけでやらなければならない、ということではあるのですが、それもスタートアップのスタートアップたるところだと思っています。

やりがいは何と言っても、個人のコントリビューションの比率が高いということですね。また、医師である石川や、福田、山田といったトップの研究者とフラットに議論を交わせるということは、製薬会社に在籍中はハードルが高いことだったので、とても魅力に感じています。病院やアカデミアと近い関係を築けているということは、MGTxらしさでもあると思います。お互いの立場をリスペクトし合いながら対等に議論を進め、1番良い着地点を探していくことができるというのは、研究を推進する上で重要であり、とても良いカルチャーだと思っています。また、MGTxのほかのメンバーも積極性のある人材ばかりで、良い環境で仕事ができています。

マイクロバイオーム創薬で起こすパラダイムシフト

自分がやりたいことをしっかり持っていて、それを実現したい人が、MGTxに合っていると思います。フォロワーではなく、「自分がやりたい」ことがあるから、MGTxに入るというスタンスが良いですね。単なるフォロワーだったら、製薬会社のほうが良いのかもしれません。また、枠にハマらず柔軟にやりたいことを実現していけるようなイノベータータイプの人や、チャレンジングなこともやっていきたい人も良いと思います。

私自身、腸内細菌研究という専門外の領域に触れるようになったのは、50歳を過ぎてからです。人間、いつからでも挑戦することは遅くありません。重要なのは、自分の夢に向かう中で、成し遂げたいことへのこだわりや粘り強さを持つということです。何歳になっても、実現を可能にすることができると思います。

私がMGTxで実現したいことは、腸内細菌の薬を世に送り出し、病に苦しんでいる患者やその周りにいる様々な方々に福音をもたらすこと。これ一択です。製薬の立場の人にしか成し遂げられない重要任務であると感じています。また、腸内細菌を使った新薬の開発といった、日本ではまだ誰も達成していないこのマイクロバイオーム創薬で、製薬業界にパラダイムシフトを起こしたいです。