リバーストランスレーショナル創薬で「患者さんに薬を届けたい」 チームで挑む“前例なき挑戦”

MGTx STORYでは、メタジェンセラピューティクス株式会社(以下、MGTx)の各メンバーが、入社のきっかけや事業にかける思いを語ります。今回は、MGTxで腸内細菌叢移植(FMT)の分子メカニズム解析に取り組む、小川嘉奈のストーリーです。

小川 嘉奈(おがわ かな)
メタジェンセラピューティクス株式会社 創薬事業部 シニアリサーチャー

<経歴> 
九州大学 大学院医学系学府 医学専攻 博士(医学)。大手製薬会社関連企業での抗体医薬品開発に従事した後、2022年にMGTx入社。

「動物に関わる仕事がしたい」という思いから大学進学

家で犬を飼っていたということもあり小さい頃から生き物が好きで、将来は動物に関わる仕事をしたいという漠然とした思いを持っていました。大学は岩手大学農学部に進学し、乳牛の免疫寛容についての研究に携わることになります。乳牛は人工授精で妊娠させるのですが、この妊娠時の免疫寛容のメカニズムを解明することで牛の妊娠成立を早期発見する仕組みをつくるため、研究に励みました。

大学で研究を進めるうちに、牛の免疫だけではなく人の免疫システムを知りたいという気持ちが芽生え、大学院は九州大学の医学系学府に進みました。そこでは、分子生物学を基本とした免疫遺伝学という領域で、おもにアレルギーの分子メカニズム解明に向けた研究を行いました。

アレルギー反応は、花粉症、喘息、アナフィラキシーなど多岐にわたって症状を引き起こすことが知られていますが、意外にもそれらを説明する分子メカニズムはわかっていないことが多く、治療のほとんどは対処療法です。例えば花粉症では抗ヒスタミン薬と呼ばれる、ヒスタミンの働きを抑える薬が使用されますが、ヒスタミンの放出そのものを抑制するような分子標的薬がないため、そのような原因の根本にアプローチするための創薬を目指した研究を進めました。

“患者さんのためになる研究”を求めるように

その後、製薬会社に就職することに決めました。大学に残って研究を続けるという選択肢もありましたが、大学で研究を進めるうちに、最終的に病気で苦しむ患者さんの力になれるような研究をしていきたいという気持ちがどんどん大きくなっていったんです。その会社は医薬品のなかでも抗体に特化した研究を行っていて、わたしも抗体医薬品の創薬に携わりました。

就職してからも腸内細菌との直接的な関わりはあまりなかったのですが、大学院生のころから徐々に腸と免疫機能の密接な関連について話題になりはじめていました。免疫の研究に携わる身として腸管免疫もやりたいという思いはありましたが、その想いを叶えられないまま社会人になり、心残りがずっと頭の片隅にあったように思います。

FMT研究、MGTxとの運命的な出会い

そんななか、2022年に放送されたテレビ番組に、腸内細菌叢移植(FMT)に国内第一線で取り組む石川の様子が取り上げられていたんです。もともと海外でのFMTの事例については論文や学会を通して知っていましたが、日本でも実際に患者さんの症状が改善するまで臨床研究が進んでいるということに、とても感銘を受けました。

しかも、健康な人の便に含まれている腸内細菌叢を患者さんの腸に移植するという、これまでに例を見ないある意味突飛な取り組みを日本で行うというのは、並々ではない困難をいくつも乗り越えて活動してきたのだろうと想像しました。今振り返ると、患者さんのために奔走するそんな石川の姿を見て、将来自分がやりたいこととの方向性の一致を感じていたのかもしれません。
その後、たまたまエージェントから声がかかり紹介されたのがMGTxでした。テレビで見た石川が設立した会社だとそのとき初めて知り、運命的な出会いを感じました。自分のやりたいことと世の中に求められていることが一致し、漠然としていた将来像の点と点が線に繋がった瞬間でした。

リバーストランスレーショナル創薬で「より確実な創薬」を目指す

現在は、創薬事業部のシニアリサーチャーとしてFMTの分子メカニズム解析を行っています。FMTが“なぜ効くのか”ということを解明することが私のミッションです。

実際に前職でも行っていた薬効薬理という分野ではあるのですが、FMT起点の創薬の特徴である「リバーストランスレーショナル創薬」ができることが最大のメリットだと感じます。すでに実証されている患者さんごとのFMTの分子メカニズムを解析し、逆算(リバース)して創薬を目指すことで、突き詰めていけば必ず患者さんに薬を届けることができると確信しています。

薬を作ってから患者さんに効果を試すという通常のやり方だと、ドロップアウトしてしまうシードがたくさん出てしまうこともあります。そのため、創薬は大海原で釣りをするような、何が当たるか分からないといったイメージをもっていました。しかし、リバーストランスレーショナル創薬が可能な今は、いけすから確実に釣ることができるようなイメージを持っています。それにより私自身のモチベーションも高く維持できますし、会社だけではなく社会への貢献度がとても高い役割を担っていると感じています。

最終的な目標はもちろん、大学院からの目標でもある「患者さんに薬を届けること」です。リバーストランスレーショナル創薬で「より確実に」「短期間」で薬を開発し、実際に患者さんの病気が良くなるところまで尽力し続けたいです。そして今後は腸の病気だけではなく、がんやパーキンソン病など腸管でのシグナルを介して発症する幅広い疾患の創薬に繋げていきたいと考えています。

専門性は違えど同じ方向を見つめている

私が感じるMGTxらしさは、一人ひとりが持ち味をいかんなく発揮して、みんなで前例のないことに挑戦しているということです。

MGTxメンバーは皆、それぞれ異なる領域のプロフェッショナルでありながら、患者さんを助けるために一丸となって同じ方向を見ています。誰も答えを持っていないことを成し遂げようとしているので、今までもこれからも、いろいろな人の協力が必要な取り組みだと感じています。ぜひ、周りを巻き込む力のある人や型にはまらずに枠組みを作っていけるような人に、MGTxのチームに加わっていただきたいと思っています。

「患者さんに薬を届ける」ために、私自身もチームとともに日々頑張っていきたいと思います。