My Journey to MGTx – Takuji Yamada, Ph.D.

ヒト腸内環境は、2000年初頭にヒトゲノム計画が一段落して以降、次なる研究対象の一つとして脚光を浴び、解析技術の革新とともに研究が進められてきました。

2007年にEUが出資する腸内環境研究を進める大型研究プロジェクトがはじまり、多くの研究者が世界中から集まっていました。当時、バイオインフォマティクスという分野で遺伝子配列情報などを扱うデータ解析を行ってきた私は、その大規模な研究グループに研究員として参加していました。

それまでデータ解析の分野では公開データの解析を行っていましたが、ここがはじめて未公開データを扱う機会となりました。実際にヒト腸内細菌由来のDNA配列情報を研究グループとして取得し、メタゲノム解析という新たな技術を活用し、未公開の“生”のデータを解析することは非常に楽しく、毎日が新しい発見の連続でした。

ヨーロッパから帰国後は、日本人の腸内環境、主に腸内細菌と大腸がんの関連性について研究を進めることになります。現在も継続している研究の一つです。これまで多くのデータを見て、様々な解析を行ってきた結果、腸内細菌が大腸がんのみならず、健康維持や病気の予防に大きな役割を担っていることに強い確信を持っています。

腸内環境が疾患予防や治療に関わっているとわかってきたものの、実際に臨床現場にて利用するにはまだまだ研究活動が必要です。しかしながら、カッティングエッジな研究を進めるには研究資金が必要になります。研究成果を上げないと研究費を獲得することが難しい一方で、その前段階で資金が足りないというジレンマがありました。とくに研究を主宰する立場になり、新しい研究をスタートする際にそのジレンマは顕著です。

そんな現状を目の当たりにし解決策を考えるなかで、公的資金からだけでなく、市場(マーケット)から研究を持続的に進めるための資金を調達をする方法があるのではないかと日々模索していました。ちょうどそのころに研究の社会実装という強い考え方を持っていた福田と出会い、すぐに腸内細菌研究の成果を社会実装を目指す株式会社メタジェン(MG)を設立しました。さらに「医療」事業に特化するために、中原、石川、福田とともに設立した、メタジェンセラピューティクス(MGTx)の創業へと繋がっていきます。

腸内細菌研究に基づく医療や創薬への取り組みは、私たちにとって大きな挑戦です。MGTxがこの大きな夢に挑戦できるのは、各分野のプロフェッショナルが集結していること、そして集まったメンバーたちの間に「信頼」と「尊敬」があるからです。

MGTxには、研究者、医師、大手製薬会社経験者など、それぞれさまざまな高い専門性を持つメンバーが集まっています。あまり意識しないと、チームメンバーや仲間への尊敬や感謝の気持ちを忘れがちですが、MGTxではその専門性が高いがゆえに、どのメンバーもお互いを尊敬しあう関係性を築けていると感じています。その関係性があるからこそ、質の高い研究成果、事業をうち出すことができます。

MGTxとして、まずは石川が執念をもって続けてきた腸内細菌叢移植(FMT)の社会実装を実現することが最初の目標です。そして、その中でバイオインフォマティクス研究者として私が目指しているのは、FMTにおける真のドナーマッチングです。FMTでは患者さんと腸内細菌ドナーとのマッチングがとても重要になります。今後データの解析を進めていくことで、その人により適した腸内細菌ドナーを見つけていくこと、そして腸内細菌による創薬の実現が可能になると信じています。がんゲノム医療では、遺伝子情報に基づくがんの個別化治療が実践されていますが、同様に便の情報、すなわち人それぞれが持つ腸内細菌の情報に基づいて適した治療を提供する「マイクロバイオーム・ベースド・プレシジョンメディスン」をいつか実現したいと考えています。

私たちは、今後も関わっていくすべての方への「尊敬」と「感謝」の気持ちを忘れずに、そしてどんな時も患者さんに寄り添いながら、革新的な腸内細菌科学の社会実装を目指して邁進します。

メタジェンセラピューティクス株式会社
最高科学顧問
山田拓司